天平令和の発願祭と音談義
2019年9月29日、己巳の新月の日、滋賀県信楽の新宮神社で「天平令和の発願祭」という祭りが開催されました。私もお手伝いの一人として参加したのですが、祭りの合間に奉納演奏された音楽家でサウンド・プロデューサーでもある岡野弘幹さん、その岡野さんと神楽サロン代表の奥山秀朗さんとの音談義に横から混ぜていただきました。
天平令和の発願祭
岡野弘幹さんは、世界的に活躍されている音楽家で、最近は主に笛を中心とした民族楽器を演奏されています。岡野さんの奏でられる音は倍音を多く含み、生の演奏を聴くと、周波数の幅も非常に広くダイナミックです。
一方、奥山秀朗さんはラウンジ&ギャラリー「神楽サロン」で、森の自然音に満ちた空間を運営されています。神楽サロンは東京の神楽坂と伊勢の2箇所にあります。ここで提供されている自然音は、ハイパーソニック・エフェクトを提唱されている大橋力(山城祥二)氏の研究によって開発されたサウンドです。
ハイパーソニック・エフェクト
一般的に、人の聴覚能力は低音は20Hz〜高音はおよそ20kHzが上限とされており、市販の音楽CDなどもそれに基づいた周波数帯域で作成され、その範囲外の低周波や高周波はカットされています。
ハイパーソニック・エフェクト(Hypersonic effect)とは、可聴域を超える周波数成分の音が、ヒトの生理活動、特に脳の賦活能力やストレス解消、免疫力にも影響を及ぼすという現象です。大橋力氏らの研究では、可聴域のみの聴取では、脳の活動が減少するという結果も報告されています。
岡野弘幹さんは、人間の身体の各器官は、それぞれ固有の周波数を持っており、何か身体の不調が起きた時にその器官に対応した音を身体で聴くことによって、不調が改善されるというサイマティクス・セラピーに関連する話をされていました。サイマティクス・セラピーとは、イギリスのマナーズ博士(1916〜2009)の研究と臨床によって確立された音響療法のことです。岡野弘幹さんは、直接のサイマティクス・セラピーやマナーズ・サウンドと呼ばれるものとはまた別に世界中の民族楽器などの周波数を測定したりして、いろいろ研究されているとのことでした。
野生の音とオーケストラの楽器の音
以前、このブログでもミュージシャンで作曲家、音響生態学者でもあるバーニー・クラウス氏の著書「野生のオーケストラが聴こえる」をご紹介し、現代人が限られた音環境の中で、野生の直感や感性を失いつつあるということを述べました。
野生のサウンドスケープ
上の記事を書いてから、約4年が経過していましましたが、岡野弘幹さんと奥山秀朗さんのお話を聞いて、再び自然と音について、気づきを得ることが出来ました。
私は、プロフィールにも書いていますが、少年時代はクラシックの声楽を習い、テレビやオペラなどの大きな舞台にも出させていただきました。そこでは、最小限の構成でも生の管弦楽団、オペラでは京都交響楽団やNHK交響楽団の演奏で歌わせていただきました。そのおかげか子供の頃から生のオーケストラの倍音や周波数帯域に親しむことが出来ました。
オーケストラの楽器の音は、熱帯雨林や民族楽器の音の幅には到底及びませんが、一般的なロックやポップスの電子楽器を中心とした音よりは、遥かに豊かな音を含んでいます。またロックやポップスの楽曲では人の情感に働きかけるような曲は多いですが、自然の風景を想起させる楽曲はほとんどありません。ロックでもビートルズは、積極的にクラシック音楽の要素やオーケストラの演奏も取り入れているので、ちょっと別格ですが。
一方、クラシック音楽のオーケストラの演奏は、元々は自然の風景を描写したものが多いようです。フランスのアートディレクター、ルネ・マルタンによると、自然にちなんだ楽曲は、1600曲におよぶそうです。2016年の「ラ・フォル・ジュネ」音楽祭のコンサートでは、そのなかから約900曲に絞って、プログラムに取り入れたそうです。

フランスの音楽学者、エマニュエル・レベルの著書「ナチュール」は、その音楽祭のためにルネ・マルタンから依頼を受けて、自然と音楽についての考察をまとたものです。「ナチュール」とはフランス語で、女神イシスに象徴される自然を表しています。岡野弘幹さんと奥山秀朗さんのお話に触発され、ひとまずはエマニュエル・レベルの著書を読みつつ、自然と音について、改めて考えていきたいと思った次第です。
『ナチュール~自然と音楽 ナント・ラ・フォル・ジュルネ音楽祭2016』(2CD)
岡野弘幹さんは各地で演奏会も行われています。ご都合のつくかたは、ぜひその豊かな音霊に触れてみてください。
岡野 弘幹 Hiroki Okano website

また奥山秀朗さんが代表をされている神楽サロンのサイトはこちらです。様々なイベントも開催されています。
神楽サロン